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洗濯と、腹いっぱいの朝食と

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旅の2日目にやることは決まっている。洗濯とスーパー探しだ。

部屋のシャワーで洗濯はできるが、乾かす場所をどこかホテルで借りなければならない。

そしてスーパーは安い店を探さないといけない。

イスタンブールはカッパドキアより物価が安いとはいえ、外食は日本と大差ない水準だ。

部屋にキッチンはないし、厳しい戦いになりそうだ。朝食付きなのだけが救いだった。


朝食会場は地下にあった。肌寒くて薄暗いが、広い。

係員の女性に部屋番号と名前を伝えるとトレイを渡された。ビュッフェ形式らしい。

これは有難い。

テーブルを見渡すと品数が豊富だ。

ロールパン、何種類ものチーズとハム、レタスやミニトマトのサラダ、ベーコンにソーセージ、フルーツポンチにヨーグルト。

後から気づいたが、ブルガリアが近いせいか乳製品のクオリティが高い。

牛乳もバターもチーズも、どれも味がしっかりしていて美味しかった。

まずサラダを取り、パンにジャムとバターをたっぷり塗り、ソーセージとハムを皿に盛る。

最後にヨーグルトとフルーツを食べて、オレンジジュースとチャイで締める。

一通り全部食べた。カロリーは余裕で2,000オーバーだろう(笑)

海外にいる間はダイエットも健康管理も考えない。タダ飯が食べられる時に限界まで食べる。

次にいつ食事にありつけるか分からないし、お金はなるべく使いたくない。これがこの旅で身につけた、僕なりの生き抜く戦術だ。

日本でこれをやると悪目立ちするかもしれないが、ここは海外だ。

周りの客も女性スタッフも、他人のことなど気にしていない。それが清々しかった。

日本は恥の文化だとよく言うが、海外の「他人に無関心」という文化は、旅人にとってはむしろ気楽でいい。


朝食を終えてフロントに向かった。

また例の兄ちゃんが奥から出てきた。洗濯物を乾かす場所を借りられないか相談すると、突然興奮気味に怒り出した。

早口で何を言っているのか聞き取れないが、おそらく「そんなことできるわけないだろ」という内容だろう。客に向かって怒るようなことなのか。

ふとフロントの張り紙に目が止まった。「ランドリー 800円」の文字。

昨日のチェックイン時には一切説明がなかったが、これは使えるのではないか。

その紙を指差して尋ねると、兄ちゃんの表情が急に穏やかになった。現金な奴だ。

800円分のリラを渡すと「ついてこい」と言って歩き出す。言っておくが僕は客だからな。

日本なら大クレームものだが、ここは海外だ。黙ってついていく。

連れて行かれた先にはコインランドリーのような洗濯機と乾燥機が置いてあった。

機械にコインを入れて「これ洗剤」と言い残して兄ちゃんは去っていった。

さて困った。ヨーロッパの洗濯機は日本のワンタッチ式とは違い、素材に合わせてダイヤルで設定するタイプだ。

どこをどう操作すればスタートするのかが全く分からない。翻訳アプリで機械の文字を読み込んでみても解読できない。お手上げだ。

またフロントへ戻って兄ちゃんを呼んだ。

「いい加減にしろ」という顔をしながらも渋々ついてきて、洗濯機の使い方を説明してくれた。

そもそも最初に説明しておけばよかっただろうと思ったが、口には出さなかった。無事に洗濯が回せたのだから、良しとしよう。

この旅でいろんな人と出会ったが、悪い意味でこの兄ちゃんは鮮明に記憶に残っている。

僕の旅ワースト3に入る人物といっていい(笑)。

滞在が長かったせいで、その後も何度か顔を合わせる羽目になったのが余計にきつかった。

乾燥機が回っている間にスーパーへ向かった。


ホテルの周辺はイスタンブールの中でも郊外に位置していて、

関西で例えるなら梅田が中心街だとすると、ここは宝塚くらいのローカルな町だ(笑)。

モスクと小さな商店が並ぶだけの静かな街で、駅からホテルまで傾斜のある道が続いていて移動もなかなか大変だ。

ネットで調べると近くに大型ショッピングモールがあるらしいので行くことにした。

モールの入口には空港のような荷物検査があった。係員が立っていて、荷物をベルトコンベアに乗せ、人もセンサーでチェックされる。

トルコはテロの被害を受けてきた国だけに、警戒態勢が徹底されている。

買い物バッグとスマホと財布しか持っていない僕はすぐに通過できたが、日常の買い物にここまでの検査があることに複雑な気持ちになった。

中に入るとドバイ以来の都会の空気がした。スタバ、フードコート、洋服のテナントが並ぶ郊外型のイオンのような広い施設だ。

カッパドキアの岩の街からここへ来ると、同じトルコとは思えない。

フードコートにはケバブやハンバーガーの店が並んでいたが、セットで1,000円から2,000円はする。

昨今の日本でも似たような価格帯だが、ラオスで200円のチャーハンや生春巻きを食べていた体にはどうしても高く感じてしまう。

あそこなら何杯食べられるか、などと考えてしまうのは東南アジア旅の悪い癖だ。

スーパーは広くて品揃えも豊富だった。まず目に飛び込んできたのが巨大なレタスだ。

日本の倍以上はあろうかというサイズで、お化けのようなカボチャや瓜も棚に並んでいる。

さすがヨーロッパ、食べ物のスケールまで体格に合わせてある。

レタスは約100円。部屋の洗面台でちぎって食べればサラダになる。迷わずカゴに入れた。

あとはいつものフランスパン、チーズ、ハム。飽きたが他に選択肢がない。そろそろ米が恋しくなってきた。

そんな中、イスタンブールで最高の出会いがあった。ライスプディングだ。

名前の通り米を使ったミルク粥のようなデザートで、牛乳と砂糖と米をじっくり煮込んでとろりと仕上げたもの。

表面はオーブンで軽く焼かれていて薄く焦げ目がついている。

一口食べると、濃厚なミルクの甘さが口いっぱいに広がり、米のほどよい食感が心地よい。

シナモンをひとふりして食べるとまた格別だ。

米に飢えていた僕には、その甘さと柔らかさが胃にも心にもしみた。一個150円という良心的な値段も嬉しい。

毎晩、夜のデザートとしてこれを食べるのがイスタンブール滞在中の楽しみになった。

カロリーは相当高いと思うが、毎日食べ続けたら糖尿病まっしぐらだろう(笑)

それでもやめられなかった。あの甘さはイスタンブールの思い出と完全に結びついている。


買い物を済ませてホテルへ戻る途中のことだった。

道を歩いていると、突然前方にいた屈強な男に腕を掴まれた。

「どこへ行く?何人だ?」

恐怖と驚きで声が出なかった。反射的に手を振り払うと、男の表情が険しくなった。

よく見ると周囲に仲間らしき男が4人ほどいる。完全に囲まれた形だ。

強盗か、それとも別の何かか。頭が真っ白になった。

しかし仲間のひとりが僕をじっと見てから「彼は観光客だ」と首を横に振った。

腕を掴んでいた男は僕をしばらく見つめてから、仲間とともに去っていった。

よく見ると全員、制服姿だった。

警察官か、あるいはテロ対策の特殊な組織だろうか。アジア人である僕を見て職務質問してきたのだろう。

素直にパスポートを見せればよかったのかもしれないが、いきなり屈強な大男に腕を掴まれたら誰だって強盗だと思うだろう。

本物かどうかも分からないし、あの状況で冷静になれというのが無理な話だ。

トルコはそれだけテロに警戒している国なのだと、あらためて実感した。

疲れた。ホテルに帰ろう。

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