オモニア広場は昼間こそ平和そうな雰囲気だが、夜は治安が悪くなるので近づかない方がいいと聞いていた。
昼間でもスリには気をつけながら歩く。
広場の近くを歩いていると、イチゴを売っている屋台を見つけた。1パック1ユーロ、約160円だ。
周辺では2ユーロから3ユーロが相場なので破格といっていい。日本でも十分安い値段だ。
ただよく見るとイチゴは少し傷んでいたり小粒だったりと状態は良くない。なるほど、だから安いのか。
それでも食べられるなら問題ない。貧乏旅行なら買う一択だ。
近くには市場もあったので覗いてみた。豚や鶏が吊るされていて壮観な眺めだったが僕には用がない。
そういえば昔ここアテネに来た時にボンレスハムを買って宿で食べていた記憶がある。
あれから20年経っても節約旅のスタイルはさほど進化していないようだ。
市場を出ると鳩の大群が寄ってきた。餌をもらい慣れているらしく全く警戒していない。
こちらも何かあげられるほどの余裕はない。無視して突き進む。
困っていたのがサングラスだ。トルコ滞在中に紛失してからずっと不便だった。
海外の日差しは強くて日中は目がきつい。
アテネはお土産屋が多いので探すには適している。
何店も見て回ったが安物でも10ユーロ、1,600円ほどが相場のようだ。
さらに探し回ってようやく800円のものを見つけた。フレームを確認しても特に問題なさそうだ。
実はアテネのお土産屋には苦い思い出がある。
20年前にウエストポーチを買って5分も経たないうちにチャックが壊れて使い物にならなくなった。
返品か交換をお願いしたら「うちの商品じゃない!」と言い張られて泣き寝入りした。
アテネのお土産屋は信用ならないというのが僕の持論だ。
今回は慎重にフレームを何度も確認してから購入した。
このサングラスは日本に帰国してからも重宝したから、結果的に良い買い物だったと思っている。
アクロポリスの近くの広場を歩いた。
名前は忘れてしまったが、ここが一番アテネらしく人も多くて活気がある。
20年前に来た時の記憶と重なって懐かしさが込み上げてきた。
ヨーロッパに再び来たんだという実感が、ここに来てようやく湧いてきた。
そろそろスーパーに寄って帰ろう。チーズとハムばかりの毎日にそろそろ飽きてきた。
お惣菜コーナーを覗くと円形のパイが目に入った。美味しそうだ。
宿のキッチンには電子レンジもあったはずなので温めて食べられる。それとビールも買おう。
ギリシャのビールは個性的で面白い。
500mlで200円から300円と日本とほぼ同じかやや高いくらいだが、飲みたい気分だから構わない。
サラミも追加してカゴに入れ、ウキウキしながら宿に向かった。
部屋に戻りキッチンでパイを温め、サラミを皿に並べてビールを用意する。この瞬間が一日の中で一番楽しみだ。
キッチンの隣に8畳ほどの休憩スペースがあったので、そこで一人小さな宴会を始めた。
パイを一口食べると外はサクサクで中はほくほくしていて美味しい。ビールも冷えていて最高だ。
しばらくすると学生らしき女の子が入ってきた。
僕を見て微妙な表情を浮かべながら共有冷蔵庫から飲み物を取り出し、足早に部屋を出ていった。
きっと部屋に戻って友達に言っているんだろう。
「なんか変なアジア人のおじさんが一人で酒飲んでる」と(笑)。
学生寮みたいな雰囲気の場所で40代のおじさんは明らかに浮いているが、部屋はベッドしかなくて狭いし他に食べる場所がないから仕方ない。
宿には無料のティーパックが置いてあったのでケトルで何度もお湯を沸かして飲んでいた。
滞在中に10個は使ったと思う。消費量からして僕しか飲んでいないようだ(笑)。
宴会を終えて部屋に戻ると先客がいた。
ポルトガル人の若い女性で、すらっとしたモデルのような体型で背も高い。175センチはあるだろうか。
4人部屋に二段ベッドが2つあって、彼女が下の段、僕が上の段、もう一つの二段ベッドは空いている。
いや待て。どういう割り振りをしているんだ。3畳あるかどうかの密室に男女が相部屋というのはどう考えてもおかしいだろう。
こういう時に男なら喜ぶのが普通の反応なんだろうか。
20代ならそうだったかもしれない。でも40半ばになると喜びより気まずさが圧勝する。
ラオスのルアンパバーンでも似たような状況があって、
後半は僕以外がヨーロッパ人の女性3人グループになって完全アウェイだった記憶がある(笑)。
あの時より今回の方がさらに気まずい。実質2人部屋なのだから。
彼女は人懐っこい人で最初は少し話していたが、相手はネイティブスピーカー、こちらはコミュ障の日本人中年だ。そう長く話題が続くわけもない。
「シャワー浴びてくるね」と彼女が言って部屋を出た瞬間、僕も廊下に出た。
あの密室に2人というのはさすがにきつい。
2階のフリースペースに移動してスマホを眺めながら時間を潰す。
部屋に戻りにくい。どうしよう。1時間ほどフリースペースでスマホを眺めてから、意を決して部屋に戻った。
彼女はベッドに座っていた。
Tシャツと短パンのラフな姿で「冷蔵庫どこにあるか知ってる?」と聞いてくる。
2階のキッチンとフリースペースの場所を説明すると「ありがとう」と言ってそのままラウンジへ向かっていった。
なんだ、気まずいのはお互い様だったようだ。
今のうちにシャワーを浴びてベッドに入ろう。カーテンがあるだけでこんなに安心感が違うものか。
本を開いてしばらく読んでいるうちに眠くなってきた。
アテネの夜が静かに過ぎていった。

